ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃 (講談社現代新書)
 一般レベルでも聞くことが多くなった感のある「ゲノム編集」という言葉であるが、遺伝子組換えとはどう違うのだろうか?
 この本を読む目的は、ゲノム編集という最先端技術・クリスパーについて知るためだ。

 クリスパーの肝は、ゲノム編集技術の登場前は、編集したいDNAをタンパク質で認識していたのをRNAで認識できるようにしたこと。これで飛躍的に認識率が上がったということらしい。
 聞くと当たり前のように聞こえる。なぜなら、DNAは相補的塩基対でできているのだし、RNAは相補的塩基対をつかってDNAの情報を読み出しているのだから。これは高校生物レベルでも習うはずだ。ただ、そうやって機能するRNAが発見されたことが大きいのだろう。望みの場所を認識、切断できるようになり、ゲノム編集という文字通りの編集ができるようになったということらしい。
 そして、これまでの遺伝子組換えというのがいかに非効率的で確率の低いことをやっていたのだな、ということも本書で知ることができた。

 いかにゲノム編集といえど、塩基配列で認識しているのだから、望む配列とたまたま同じ配列であるが、意図しない部位はないのか、ということが気になった。(→オフターゲットというらしい)
 意図しないところが切断、編集されたらマズイのではないか?それは、ゲノム解読された生物では全塩基配列が調べられてるから、大丈夫なのか?

 ゲノム編集とは別のことも本書では知ることができた。例えば、既に異種移植(ブタの膵臓を人に移植)がされており、成功しているんだとか。しかも数例という規模ではなかった。ちょっと前に再生医療技術の調査の一環で異種移植を調べたことがあったが、異種移植はむしろ課題として認識していたから驚きだ。
 
 クリスパー発見の経緯の物語は非常に面白く、興味深く、素晴らしいと思った。エイズのメカニズムを研究していて、それがペストと類似性していることに気付いた。それならば、ペストを生き延びた人たちは突然変異によってそれに対する遺伝子があるはずで、それを利用できるに違いない、という流れ。すばらしい。

 ただ、悠久の時を経て進化してきたDNAを人間が改変していっても大丈夫か?進化すらも人自身の手によって進んでいくのか?ということが懸念される。